最終更新日 2011/11/2
ウミホタルとは?
■分類および和名・学名
 ウミホタルとは、特定の生物を示す標準和名で、東京湾アクアライン・木更津人工島「海ほたるサービスエリア」の名称の元になった生物です。
 瀬戸内海から北九州にかけての地域では「しき」「ひき」、千葉県の南房総では「あんけら」「あるけら」とも呼ばれていたことがあるようです。
 学名は Vargula hilgendorfii (ヴァルグラ・ヒルゲンドルフィー)といいます。
 ウミホタルの分類は次の通りです。
  節足動物門 phylum Arthropoda
  大顎亜門 subphylum Mandibulata
  甲殻上綱 superclass Crustacea
  介形虫綱 class Ostracoda
  ミオドコーパ亜綱 subclass Myodocopa
  ミオドコーパ目 order Myodocopida
  ミオドコーパ亜目 suborder Myodocopina
  ウミホタル上科 suprefamily Cypridinoidea
  ウミホタル科 family Cypridinidae
  ウミホタル属 genus Vargula

 なお、ウミホタルの分類に関しては、今後も変更が予想されますが、2011年現在は、上記の分類となっています。

■分布
 ウミホタルは日本固有の生物で、青森県から沖縄県までの広い範囲に生息し、特に千葉県南房総や瀬戸内海岸では非常に多く生息しています。
 しかし、地域によって、遺伝形質に違いのあることも明らかにされており、同じウミホタルでも地域によって、形態や大きさなどに若干の差があるようです。
 ウミホタルは、淡水の流入の少ない、比較的穏やかで海底が砂地の海岸に多く生息しています。
 現在のところ、北海道沿岸での生息は確認されていません。

■形態
 ウミホタルの体の構造は非常に複雑です。簡単に言えば、2枚の透明な殻(二枚貝の殻のようなもの=背甲といいます。)を被ったエビのような体をしています。大きさは、雄で2.8〜3.1mm、雌で3.0〜3.4mm(館山の個体平均)です。

 ウミホタルには7対の付属肢があり、それぞれの付属肢には、それぞれ異なった役割があります。例えば、第1触角(第1肢)は、水の流れなどの関知、第2触角(第2肢)は遊泳運動に、第3肢はエサを食べる際に、といった具合に、それぞれに役割があります。そして、特徴的なのが第7肢で、別名、清掃肢とも呼ばれています。これは文字通り、背甲内の清掃や、メスの場合には卵の清掃や新鮮な海水を送り込むために使われます。形態も清掃肢の名にふさわしく、先端にブラシ状の剛毛が生えています。

 光を感じる組織として、2個の複眼があります。これは、それぞれ18個の個眼と呼ばれる小さな球形の組織が集まって形成されています。また、複眼の他に中央眼とよばれる第3の眼を持っており、これも光を感知する能力があります。

 ウミホタルには心臓も存在します。ウミホタルの血液は透明で、血球様の顆粒が血管内を流れています。血管は背甲にも分布しており、背甲を透明に保つために重要な働きをしています。また、背甲に張り巡らされた血管系で、同時にガス交換(=呼吸)も行っていると考えられています。

 ウミホタルの口の近くには上唇腺(じょうしんせん)とよばれる腺組織があり、ここで発光物質ルシフェリンと、酵素のルシフェラーゼが合成、蓄えられます。

 尾叉(びさ)は、主に砂に潜ったりする際に使われますが、ウミホタルは尾叉に反射板と呼ばれる組織があり、周囲の光を反射させることができます。


図1.ウミホタルの構造
1:第1触角  2:複眼  3:心臓  4:消化器官
5:第7肢  6:上唇腺(発光腺)  7:尾叉  8:卵



図2.オスとメスの鑑別
※図におけるオスとメスの背甲の色調の違いは、撮影時の照明の影響です。
 実際には色調に違いはほとんどありません。
<オスとメスの鑑別>
 オスとメスの鑑別法は、いくつかありますが、比較的わかりやすい部分を紹介します。

A.尾叉の上部の起伏
 オスの背には波上の起伏があるが、メスはオスよりも起伏が小さく細かい。(但し成体のみ。幼体では確認できない。)

B.殻の開口部の上(くちばし状突起)
 メスは滑らかなカーブなのに対し、オスはやや角張っている。

C.殻の開口部
 メスに対し、オスの方が開口部が広い。

D.交接器
 オスには交尾針と呼ばれる交接器がある。(青矢印)

その他
 全体の大きさはオスよりもメスの方がやや大きい。

 第1触角の剛毛の本数が、メスは長い剛毛3本なのに対し、オスは4本である。

※幼体ではオスとメスの鑑別は難しく、第1触角の剛毛の本数以外では鑑別ができない。
■生態
<活動周期>
 ウミホタルは夜行性で、昼間明るいうちは、砂の中に潜っています。暗くなると、砂から出てきて、主に海底付近を遊泳し、エサを食べたりしていると考えられています。
 また、ウミホタルの活動は月齢による影響を受けているといわれています。
 
<ライフサイクル>
 卵から孵化し、母体背甲内から放出されて遊泳開始後、5回脱皮して成体となります(なお、母体背甲内での卵膜の剥離を1回目の脱皮と数える事がありますが、その場合は6回脱皮する、となります)。成体のオスは、特定の発光(らせん状の発光パターンがこれに相当すると考えられています)によりメスを呼び寄せて交尾すると考えられています。メスは、貯精嚢とよばれる器官があり、一度の交尾で複数回の受精が可能になっています。自然界での寿命ははっきりとはしていませんが、6ヶ月程度は生きるようです。
 また、成体になってからも、背甲に物理的な損傷などが生じると、脱皮して新たな背甲にすることも知られています。
※発育ステージの表記法
 母体背甲内から放出されたばかりの幼体をA-5と表記し、以降脱皮するごとにA-4、A-3、A-2、A-1と表します。成体はAと表記します。

<食性>
 雑食性で、魚などの動物の死骸なども食べています。しかし、多数のウミホタルでゴカイなどを襲って食べることもあり、養殖魚への食害の報告もあるようです。
 実験的には、人間の食べるものならほとんど何でも食べます。たとえば、チクワ、レバー(豚レバーがよい)、シラウオ、にぼし、イカ、米、クリ、ラーメン、納豆なども食べます。そして、人間の腕や指なども食べようとします。被験者(実際に試してみた実行委員のメンバー)によれば、「ブヨに刺されたような痛みを感じた」そうです。
 そして、ウミホタルは想像以上に早食いな生物であることも明らかにされています。柔らかいものであれば、30秒もあれば消化器官がいっぱいになってしまいます。

<走光性>
 強い光に対しては負の走光性(光から遠ざかる)があることが知られています。仲間が発した強い発光に対しても、明確な負の走光性を示します。このことは、ウミホタルの光が仲間への危険信号になっているということを意味します。ところが、ウミホタルは、非常に弱い光に対して、正の走光性(光の方向に向かって移動する)を示すことがあることも確認されています。これは、ウミホタルの発光が、仲間への危険信号以外の他の信号になりうることを示しています。

<発光>
 発光物質を上唇腺から海水中に放出することで、青紫色に発光します。

 陸のホタルやヤコウチュウとは違い、体外(細胞外)で発光が起こります。発光物質は「ウミホタルルシフェリン」と呼ばれ、同時に上唇腺から放出される酵素の「ウミホタルルシフェラーゼ」の作用で酸化される際に、発光反応が起こります。陸のホタルなどではこの反応系にATP(アデノシン3リン酸)が必要とされていますが、ウミホタルルシフェリンはATPを必要とせず、ウミホタルルシフェラーゼにより直接酸素と反応ができます。

 ウミホタルが発光するのは、主に身の危険を感じた時と、求愛のための2つが知られています。
 魚などの捕食者に襲われたとき、ウミホタルは強烈に発光します。この発光に驚いた捕食者から捕食を免れると同時に、周囲のウミホタルは負の走光性で逃避行動をとるため、結果として仲間への危険信号にもなっています。実験的には、電気や超音波、温度差など、様々な刺激に対してウミホタルは発光します。(詳しくは後述します)

 ウミホタルが発光しながら海面近くに浮上し、海面付近で螺旋を描くという発光パターンを示すことがあります。この発光が、求愛のための発光であると言われています。

 ウミホタルが海面付近で集団で発光しながら、徐々に浜に打ち上げられてくる、という現象が1993年になって発見されました。この現象を「集団自然発光」と呼んでいます。

<集団自然発光>
 

図3.水面に浮くウミホタル
 1993年10月に初めて確認された現象です。秋の新月で大潮の夜、特定の場所に非常に多数のウミホタルが海面上で発光しながら、徐々に浜に打ち上げられてくる、という現象です。これは、何らかの原因でウミホタルが海面に浮上し、そこで波による物理的な刺激や、風による温度差刺激を受けて発光します。
 しかし、なぜ、特定の時期にウミホタルが集団で海面に浮上するのかはよくわかっていません。ただ、エサを十分に与えて満腹状態にしたウミホタルが海面に浮きやすいことが判明し(左写真)、現在、実験的に集団自然発光に近い状態を再現することに成功しています。
 なお、砂浜に打ち上げられたウミホタルは、やがて満ちてくる潮に運ばれ海に帰っていきます(ウミホタルは海水から取り出しても条件によっては6時間以上生存可能です)。
 生態学的な意義はまだほとんど解明されていませんが、集団見合い的な意味があるのではないかとも考えています。
集団自然発光
図4.集団自然発光(ISO1600  F:4.0 30秒間露光 撮影:K.O 撮影日:1999/10/10)


<オスメス比>
 野外でウミホタルを採取していると、冬季はオスメス比が1:1に近い割合なのに対し、初夏から初秋にかけては、極端に成体オスが少なくなることがあります。
 なぜオスメス比が偏ってしまうのかはよく分かっていません。しかし、オスの方が共食いの犠牲になりやすい傾向にあることと、海水濃度の変化にオスの方が影響を受けやすいことが分かっています。

<走流性>
 ウミホタルは、強い水流に対して逆らって泳ぐことが知られています。集団自然発光が大潮の引き潮の時間帯に発生することから、走流性も集団自然発光の1つの要因になっているのではないかと考えられています。

■ウミホタルの寄生虫
<ウミホタルガクレ>
 ウミホタルの背甲内、心臓の後ろの部分に、小さな甲殻類であるウミホタルガクレCyproniscus ovalis が寄生している事があります。メスのウミホタルに寄生すると、背甲内の卵を食べてしまう事があります。なお、オスのウミホタルにも寄生がみられます。

<原生生物>
 時より、殻の開口部付近に原生生物の付着(寄生)を認めることがあります。おそらく、ツリガネムシの一種と考えられますが、現在、種名は不明です。未記載種の可能性もあると思われます。
 また、幼体のウミホタルでは、同じと思われる原生生物が、背甲内の背中の部分に付着(寄生)している事もあります。
図5.ウミホタルに付着(寄生)する原生生物
 左:殻の開口部付近に付着(寄生)する原生生物
 右:左とは別の幼体(A-3)のウミホタル。背甲内の背部に付着(寄生)する原生生物

■刺激に対する発光
 ウミホタルは人為的な刺激を受けることによっても発光します。ここでは動画を用いてウミホタルの発光を紹介します。

1.空気中から海水に暴露されたときの発光
 この発光は採取時にウミホタルを海水で一度洗浄する際に撮影されたものです。採取したたくさんのウミホタルを一度ネットに移し、上から海水を流し込むと驚いたウミホタルが一斉に発光します。 ウミホタルは発光液を体外に吐き出すため、ネットから落ちる海水も青白く光ります。


動画ダウンロード(Windows Media)
net-1.wmv (658KB)


2.パルス波刺激による発光
 この発光はウミホタルにパルス波と呼ばれる電気的な刺激を与えることにより、刺激を受けたウミホタルが驚いて発光するものです。
 パルス波刺激中はウミホタルは身動きが取れないため、発光液を放出しながら底に沈んでいきますが、刺激が止むと再び泳ぎだします。
 ウミホタルショーでは、多くの仕掛けがパルス波刺激により発光をコントロールしています。
※パルス波刺激がウミホタルにダメージを与えることはほとんどありません。

動画ダウンロード(Windows Media・音声なし)
pa360-1.wmv (1,193KB)


3.温度差刺激による発光
 この発光は、ウミホタルが急激な温度変化に驚いて発光するものです。 映像で使用したのはウミホタルの餌(ここではゴカイ)を煮た汁を凍らせ、水槽に投入したものです。餌の匂いで寄ってきたウミホタルが、氷と接触した瞬間に驚いて発光します。

動画ダウンロード(Windows Media・音声なし)
ondo360-1.wmv (1,868KB)


■参考文献
 1)旧千葉県立幕張西高等学校科学同好会 1992.刺激に対するウミホタルの応答 日本学生科学賞全国入選1等論文.
 2)旧千葉県立幕張西高等学校科学同好会 1995.ウミホタル〜幕西からの最後の研究報告〜 千葉県児童生徒科学論文展参加作品.
 3)千葉県立磯辺高等学校科学部 1996.海蛍の生態研究1−集団自然発光の謎!− 日本学生科学賞全国入選2等論文.
 4)千葉県立磯辺高等学校科学部 1998.海蛍の生態研究2−オスメス比の謎!− 日本学生科学賞全国入選3等論文.
 5)阿部勝巳 1994.海蛍の光.筑摩書房.
 6)Ogoh,K. & Y. Ohmiya, 2005. Biogeography of luminous marine ostracod driven irreversibly by the Japan current. Evolution, 22(7):1543-1545.
 7)若山典央 2010.利尻・北海道領域におけるミオドコーパ目介形虫.利尻研究(29):75-81.
 8)Masayuki Saigusa, Kazushi Oishi. 2000. Emergence Rhythms of Subtidal Small Invertebrates in the Subtropical Sea: Nocturnal Patterns and Variety in the Synchrony with Tidal and Lunar Cycles. ZOOLOGICAL SCIENCE 17:241-251.

■参考ホームページ
 Source of Wonder (相互リンク)



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